魔王に甘いくちづけを【完】

「違うわ。眠っていたようなので、移動しただけです。別に、逃げようとしたわけではなくて・・・。あの、降ろしてください」


「駄目だ。黒い影に負けぬよう、貴女が誰のモノであるのか、しっかり自覚しておいて貰う必要がある」



ラヴルが足を動かすたびに、部屋の灯りが、一つ、また一つと順番に消えていく。

部屋中の窓という窓は、ピッチリとカーテンが引かれていて、月明かりも全く差し込まない。


部屋の中がどんどん闇に染まっていく。

やがてベッド上の壁の灯り一つのみを残し、全部が消えてしまった。

ナーダの手によって、綺麗にメイクされたベッドが闇に浮かびあがる。



「え・・・っと。自覚って、何をするんですか?」


ギシ・・とベッドのスプリングが軋んだ音がする。


「ユリア、そんなことはもう分かってるだろう」


ラヴルが片膝をベッドの上に乗せる気配がしたと思ったら、背中に柔らかなクッションの感触が伝わってきた。



―――でも、あの女性の方は・・・



「待って。ラヴルはまだ、私の質問に答えていないわ。あのお客様はっ・・・・・」


・・・恋人なのでしょう?



長い指が唇の動きを止め、言いたかった言葉が飲み込まれた。

これ以上は何も言うな、とでもいうように指先が唇をなぞっている。

壁の灯りにラヴルの顔が照らされた。

さっきまでの厳しい顔ではなく、いつもの妖艶で柔らかな微笑みがそこにある。



「ユリア、妬いているのか?彼女はただの友人だ。第一彼女には恋人がいる。心配するな。誰と一緒にいようが、私の可愛いレディはユリアだけだ―――もう何も喋るな」



額にキスをされ、頬が熱くなっていくのが分かる。

手で顔を覆いたくても、ラヴルの指が絡められていてどうにもできない。

最後の抵抗をするように、妖艶な微笑みから顔をそむけた。



「私は・・心配していません。それに、妬いてなんていませんっ」


「・・・分かっている・・・いいから、もう黙れ」



クスクスと笑うラヴルはとても優しい表情をしていて、抵抗しようとしていたユリアの固い心が、ふにゃふにゃに柔らかく解れてしまった。


体の力が抜けていく。


「ふむ、いい子だ。ユリアは可愛い―――」




―――ラヴルの唇が首筋を這っていく。

薄紅色の唇から洩れる言葉が熱い吐息へと変わる。

身に着けていた衣が、するすると艶やかな白い肌から逃れていく。

甘い濃密な夜が更けていく――――