魔王に甘いくちづけを【完】


「カルティスを呼び寄せる」



――カルティスって、確か・・・あの小島のお屋敷にいた人。

少しの間しか接していないけれど、とても優しいおじさまだった。

リリィという可愛い女の子もいたわ。



「カルティスをここに?」


「そうだ。ユリアが向こうに行くのもいいが、それだと何かと不便だ。何より、私がユリアに会えなくなるからな・・・それは困る。それならば此方に呼び寄せたほうがいい」



そう言ったあと、ラヴルはすぅと瞳を閉じた。

余程深い思案を巡らせているのか、そのまま全く動かない。

その様子は眠っているようにも見える。

ユリアの体を支えていた腕に、力が無くなっていく。



「ラヴル・・・?もしかして、眠っているの?」



呼びかけるも、微動だにしない。

上質な絹のような頬、すぅと伸びた鼻梁、色素の薄い唇。

順番にそっと触れてみた。

けれど、全く動く気配がない。



―――とても綺麗な顔で眠るのね―――


不思議・・・さっきまで起きていたのに。

余程疲れているんだわ。毎日お仕事が忙しそうだもの。


とりあえず、この膝の上から降りないと・・・。

眠ってるのに、いつまでも乗ってるのもおかしい。

それに、毛布を持ってきた方がいいわ。



起こさないように気をつけ、そぉっと腕の中から抜け、膝の上から滑り降りてソファに腰を落ち着けた。

隣を見ると、ラヴルはまだ瞳を閉じている。



ホッと胸をなでおろし立ち上がろうとしたユリアの体に、伸びてくるラヴルの腕。



くらりと視界がゆらぐ。



―――え・・・・?



今まで座っていたはずのソファがどんどん遠ざかっていく。

座った姿勢のまま、片腕で軽々と持ち上げられた体。

バランスを崩し、後ろに倒れていく。

天井が目に入り、このままでは落ちる―――と覚悟したとき、ふわりと背中を支えられた。


ユリアの黒い瞳に、不機嫌そうな顔をして見下ろすラヴルが映る。



「ユリア、何故私の膝の上から逃げる」