美苑の、獲物とした少女達に囁く愛の言葉の数々は、全て偽りだった。
 百瀬も、生きるための恋愛を、遊戯として堪能していた。

 少女が命尽きるまでに、解放し、次の少女の血を啜る。

 誰も殺めない方法をとり、美苑と百瀬は名実ともに、永遠の友愛を手に入れた。

 百瀬が、修道女を姉に持つ少女の罠にかかるまで、美苑は確かに幸せだった。
 彼女は獲物の返り討ちに遭い、美しい生命を散らしたのだった。

* * * * * * *

 空に満月が二度、昇る頃、少女達が失ってゆくの血液は、許容量に達するという。それを越えれば死に至る。
 聖良が美苑に血を分けて、今日で一ヶ月と二週間半が経つ。月の満ち欠けで数えると、あと一週間が過ぎれば、聖良は致死量の血を失うことになる。おそらく、美苑が聖良に別れを切り出してくるとすれば、およそ六日後だ。

 貧血が、日に日に酷くなっていた──。

 ちょうど三日前、光港女学校では健康診断があった。
 聖良は、採血で血漿(けっしょう)が異常に減少しているようだと診断されて、後日、再検査を受けることになってしまった。

 『顔色も良くありませんね。若い方がダイエットなんて、なさっていないでしょうね?』

 人の良さそうな派遣医師に、聖良は作り笑いしておくしかなかった。

 聖良は、今夜も廃校舎にいた。
 美しい恋人の腕の中で、誰もが味わえないような、甘美な快楽に打ち顫えていた。

 美苑の柔らかなぬくもりが、着物を通して聖良を包む。
 美苑の熱く優しい吐息が聖良の首筋をくすぐって、耳許に、奇跡のように神さびた甘い声が降りかかる。最初はじわじわ蠢いていた傷の痛みも、今は、聖良と美苑を結んでくれる愛おしいしるしだ。

 「美苑……っ。あっ、んん、気持ち良い……」

 聖良は、野生じみた欲望の下僕の如く、美苑の身体に腕を絡める。
 綺麗な匂いのする日本髪を手櫛で乱し、袷(あわせ)の襟に包まれたうなじを指でなぞって、帯と腰の隙間をまさぐる。

 聖良は、この気高く凛々しい美少女と、もっともっと仲良くなる自分を想い描いていた。