電話に気づいた彼は、電話を取って、耳にする。
そんなしぐさを見て、私はハッとした。
私が電話して、何をしろと言うのだろう?
「どうした?
家に帰ってるのか?」
彼は何を言っているのだろう?
私には、聞こえない。
....分からない。
彼は、携帯に叫びながらキョロキョロ辺りを見渡している。
でも、私に気づくことは無い。
私は電話を切ると、テーブルの上に置いた。
私が外に出ればいいだけなのに、出れない。
今、自分でやった自爆行為に
重い現実を突きつけられた。
私は、携帯をテーブルにコツコツとぶつける。
涙を目にいっぱい溜めると、ガラスに、鏡文字で書いた。
気づかれないだろう文字。
『スキ』と。
すると、振動が伝わるくらいに、携帯が振るえだす。
鳴らないはずの携帯が、鳴り響いていた。

