私の書類を指差しながら、ゆっくりと喋る彼。
両手で荷物を持ってるから、手話が出来ないんだ。
書類を抱えてるっていうか、脇に挟んでるんですけど。
「今日、沖縄に来たの...作家さんから原稿貰うためなんです」
「あぁ、やっぱり?
編集長って聞いて、そーいう仕事関係かな?とは思ってたんだ」
「その作家さんも難聴で、編集長が私のほうがいいだろう...って」
一人旅なんてしたく無かったのに。
編集長は無理やり私を沖縄に行かせた。
「遠出したこと無かったから、嫌で嫌で」
「でも、空の旅もいいでしょう?」
「はい。
でも、あなたがいたからです」
「えっ?」
ポカーンとした表情を見て、何か私したのかな?って考える。
話をしていると、いつの間にか部屋の前に来ていた。
でも彼は、私に鞄を返そうとしない。
「あの?」
「空の旅、もう一回したいと思う?」
質問の意図がいまいち掴めない。
私は考えて、考えて。
書類を床に置いて、答えた。

