「バイト、お疲れ。」

上手く笑えていただろうか?

あいの顔を直接見たいのだが、あいがあまりにも疲れたような顔をしていたから、話しをすることに集中していた。

「久しぶり。」

繰り返される言葉。

頭の中は真っ白で、何から話せばいいのかさえ、分からない。

うん。としか言わないあいだから、余計に、言葉達を探してしまう。

「音楽をかけてないなんて、珍しいね。」

不意を突かれ、あいが話をしてくる。

あいに対抗したいわけではないが、さっきまで、凄い音量で聴いてたんだよ。と赤信号の時に消した音楽を、再度流し始める。

「古い。」

それなら、新しいのを聴こうか?なんて、笑って言えたら、大人なんだろうか?

あいの前では、いつも素直になれず、後悔ばかりする。

結局、聞かなかったフリをして、そのまま歌を流す。

マスコットのCDケースは笑っているのに、あいが隣りにいるのに、ただ、僕は車を運転するだけ。

「シートベルトは、閉めろ。」

運転中なのに、あいを見ていたせいか、気が付いてしまうものは、仕方がない。

「昔は、そんなこと言ったっけ?」

疲れているのは知っているのに、不意に言葉を強く放つ。

「何かがあった時では遅い。俺の車に乗る時は、シートベルトは着けろ。」

本当は、あいが他の人の車で笑っている顔を想像したら、辛くなって、怒鳴ってしまった。

渋々、シートベルトをし始めるあいに、謝ることは出来ず、

「どこに行こうか?」

と、誤魔化してしまう。

あいが行きたい場所になら、何処へでも行くつもりだった。

「どこでもいい。」

あいなら、そう言うと思ってた。

帰って来る前から、決めていた。

「海に行こう。」

少し間が空いてから、いいよ。と、返事が来る。

pm.21:48

静かになった車の中。

響くのは、流れる歌だけ。

「手を洗いたい。」

それだけ言う、あい。

バイト先の居酒屋で、手が汚れた。と話す。

こっちにいた頃は、違うバイトをしていたのに、今のバイトのことは、聞いてない。

だけど、何も言えない。

何も聞けない。

だって、君は元カノなんだから。