僕に背を向けているあいのお腹に、手を回している、僕の左手。

離れていた気持ちや、埋めれなかった距離を、たぐり寄せたかったのかもしれない。

あいの背中に額をつけ、あいとの思い出が、急に浮かんで来た。

でも、もう泣かない。

ごめんね。を、今日は言わない。

僕の門限ではないが、あいの時間を気にしてか、自分の口から出てきた言葉が、また、子供地味ていた。

「キスから始まった恋なら、最後はキスで終わりたい。」

離れてからも、言い続けてきた言葉。

言わずとも知れた、あいの答え。

今更?と、馬鹿にしたような言い方。

だけど、あいに触れて気付いたんだ。

ホントは、ずっと自分の気持ち、知っていたんだ。


…やっぱり、愛してる…。


って、こと。

この気持ちを押さえることができなくて、少し強引だったが、#name2#の正面に立ち、フェンスの方へ背中を押し付けた。

ごめんね。なんて、今日は、言わない。

「キスしよう?」

うつ向いたあいの、細い体を抱き締め、顔を近付ける。

だけど、あれだけ嫌われたい。と思っていたはずなのに、やはり嫌われたくないのが本心なのだろうか。

頬と頬を重ねただけ。

右手はあいの背中へ回り、左手はあいの頭を撫でるだけ。

僕の体重は、あいの方へ傾いている。

遠く、隣りにいる灯台が、ドラマの主人公達にスポットライトをチラチラ照らすように、笑ってた。

「あい…。」

指で握っていた煙草を、親指と中指の爪で挟み、弾いた。

円を描きながら、綺麗な海を汚していく煙草は、音もたてずに、その光を消した。

それを見送った後に、繋がっていた頬と頬を離し、あいの顔を見た。

だけど、やはり目が合うことは無い。

「目を閉じて。」

遠い昔を、再現するかのような言葉。

意識して放った言葉ではないが、付き合っていた頃に、戻った気になっていたのかもしれない。

僕達より背が高く離れた場所にいる街頭のせいか、あいの顔がよく見えず再び、目を閉じて。と言った。

同じことの繰り返しで、意味が無く、それを確認しようと、二つの額と額が寄り添った。