所持金三十八円では、電車やバスは乗れないし、タクシーなんてもっと無理だ。
どうすることも出来ない。
それに、彼に言いに行かなきゃいけない。
合鍵も返さなきゃいけない。
やっぱり、意地を張って払わなきゃ良かった。
ここから彼の勤めている病院は近い。
『払ったよ』なんて言いたくないケド、最後に甘えることにした。
やっぱ、ただの女に五万はキツイって。
医者の彼と比べちゃいけないけれど、比べてしまう。
私そのものの
価値というものを....。
下を向いて歩いていたら、いつの間にか彼の病院の裏玄関に着いていた。
いつかの時、職員はここで出入りをすると聞いた。
私はその真正面に近い所にあるベンチに腰を下ろし、月をひたすら眺めていた。