私の彼は医者です【短】



「入って」




やっと喋った一言は、やっぱり冷たい。



鍵を玄関に置くと、彼はスタスタと中に入っていく。




一ヶ月ぶり以上の彼の家。


すべてが懐かしく、愛しい。




この家が、彼との初めてのすべてだった。




彼の前で泣くのも、怒るのも、思いっきり笑うのも。



手を繋ぐのも、キスするのも、それ以上も。




今日でその思い出は最後。




荷物が置いてあるって言っても、たいして置いていなかったのが現状で。



持っていた鞄が、パンパンにはなったけど、それくらいで済んだ。




「今日まで
あ、ありがとう」



「..........」



「あの時、助けてくれてありがとう」




彼は、私の命の恩人。


海で溺れて、死に掛かった私を人工呼吸と人工マッサージで助けてくれた。




そして『泳げ無いなら、海に入るんじゃねぇ!!!』と初対面の私に怒った。