タクシーの運転手は、ボロボロと泣く私を見て『何事だ!?』という表情を浮かべる。
しかし彼はそんな運転手を気にすること無く、行き先を淡々と伝える。
言っていた行き先は、彼の家の住所。
つまり私は、今彼の家に向かっているのである。
きっと私が向かっている理由は、単純に荷物を持って帰って欲しいからだろう。
そこまで生活用品を置いていたワケじゃないけど、彼の家には私の私物も置いてある。
無言の重い空気のまま、タクシーは彼のマンションに到着。
一万円をズボンのポケットから出して、おつりを貰わずに車から降りる。
私は彼に左腕を引っ張られ、無理やり車から降ろされた。
「ちょっ、早い...」
そんなことさえ聞いて貰えず、スタスタと歩き、私を引っ張る。
私は足が縺れそうになりながらも、足を早々と進めていた。
そんなに急かさなくても、荷物は一つ残らず持って帰るつもりだ。
そこまで急いで、しかも怒ってる。
あの看護師と本当は朝ごはん食べたかったに違いない。
そう思うと、腹が立って仕方無くて、ふくらはぎが攣るんじゃ無いかってくらい早歩きをして、彼を引っ張るような形を取る。
でも足の長さからして、そんなに彼との距離は取れない。
それがまた、泣きたいくらい悔しい。

