夕方、母の携帯に着信があった。 「梨子、父さん今空港に着いたって」 母は嬉しそうに言うが、別に梨子は嬉しくなんかなかった。 「梨子、どうしたんだよ?」 兄が言った。 「別に…」 三十分後、家の外に車が止まる音がした。ぼんやりと会話が聞こえ、車が立ち去る。 鍵穴に鍵が差し込まれる音。 ドアが音をたてて開いた。 「ただいま」 父の声。いかにも頑固そうな声だ。