「何でもない」

 小声で言った。

「じゃあ、次行こうぜ」

 逆走しているわけだから、他の人たちは不思議に思っているだろう。次、と言いながら、通ってきた筈の展示室に向かう子供たちがいるのは。

「ここは、また芸能人だね」

 サッカー選手やラグビー選手、ロッカーたちの人形が飾られた展示室は、人が他にいない。ケイシィが、サッカー選手の一人を指差して、

「コイツはつくりかえた方がいいぜ。もう、ニコラスは八十過ぎのジジイだろうから。あるいは、死んでるか」
「え?」
「だって、こいつ、五十年前に引退してるんだぜ?選手の本でそう書いてあったし」

 驚いた。この人形は、二十歳後半だろう。いつの作品なのやら。

「トゥーク、このギターのおっさん誰?」

 ケイシィに言われ、考える。

「知らないなあ。ギターは最近の物だと思うんだけど」