僕は、思わず大声を上げた。
「父さん、今、なんて言ったの?」
銀縁メガネを外して別人の父さんが、コーヒーのマグカップをテーブルに戻す。
「今は夜なんだから、静かにしなさい」
幼稚園児をなだめるみたいにゆっくりと、言った。こういう口調のときは、大体は僕を説得する前のご機嫌取りなんだ。
僕は、父さんを睨みつけた。
「ねぇ、嘘だよね?」
引っ越すなんて、さ。
だけど僕は、わかってた。父さんが、こんな冗談を言う人じゃないって。
それがわかっていたからこそ、僕の声は震えていた。
「悠太、もう諦めなさい」
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