寺という感じでも教会という感じでもない。
母屋の入り口ドアを開けると、曇りガラス戸の向こうの仏間で、

「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、・・・・・」

と数人の元気の良い題目の唱和が聞こえる。青年が右手の居間を指差した。
あるある日本の雑誌、単行本、新聞などなど。長く欧州を旅していると
誰でも日本食が恋しくなる。と同時に活字にも飢えてくる。

あれば1ヶ月前の雑誌でもむさぼり読むのだ。ここの雑誌はまだ新しかった。
夢中になって二人で本を読んでいると、例の青年が管理人さんを連れてきた。

「やあごくろうさんでんな。はじめてでっか?」
「どっかでみたことありますね?」
「インマーマンシュトラセの日本食品店につとめてます」
「ああ、あの店の・・・。何か日本の本が一杯あると聞いてきたんですが、
2,3冊借りていっても良いですか?」
「ええ、どうぞどうぞ」
「じゃ、これとこれとをお借りします。12月25日頃に返しにきますので」

オサムとマメタンは挨拶もそこそこに靴を履きかけた。と、その時。
仏間の曇りガラスがすっと開いた。なんと驚いたことに。題目を元気
一杯に唱和していたのは3人のヨーロピアンヒッピー達だったのだ。

日本人かと思っていたが、青い目の長髪ヒッピーだったとは全く想定外だ。
オサムとマメタンは目でにこっと会釈をしてそろりそろりと外へ出た。