――高校入試の日


「(…いよいよ、か)」

桜の蕾がまだかたいコートを纏っている頃

、私は桜ヶ丘高校にいた。言わずもかな高

校受験のために。

残念なことに中学時代、あまり学校に行け

なくて友達が少なかった私の周りには人が

一人もいない。他の受験生たちはそれぞれ

同じ学校らしき人とわいわいはしゃいでい

る。

独りぼっちなんて慣れてるのに、さみしい

って思ってしまう自分がいた。



そんなさみしさを紛らわしたくてふと、窓

の外に目をやった。

清々しい程に透き通った青い空にまだ咲か

ない桜の大木が一本。そして…


キラキラと太陽の光を浴びて輝く金色がそ

こにあった。


「(…きれい)」

まるで金縛りにでもあったようにその金色

を見つめていると、ゆっくりと彼の顔が上

がりバッチリ目が合ってしまった。

茶色い瞳は、真っ直ぐと私を見ていて。

呼吸をするのを忘れてしまうくらい胸がき

ゅっとした。発作とは違うその胸のいたみ

は、苦しいのにどこか心地よかった。




形のいい彼の唇が微かに動く。

『207きょうしつってどこ?』

「(207教室…あ、ここだ!)」


彼の言う207教室は多分この教室で間違いな

いだろう。私は窓の外に向かって大きく口

を開いた。

『こ、こ』

『ありがと』

音のない会話だけど、明るい、彼の声が聞

こえた気がした。

それに、誰も私を見ていなくて音のないそ

れは内容は他愛ないけど2人だけの秘密の

会話みたいでわくわくした。