彼は、歩みを止めた。
「何だい?」
優雅に振り返って、こちらを見た彼は、夕日をあびながら、微笑んでいる。
その姿は、とても美しくて―…
『ドクン』
一瞬胸がなった。
「結衣?」
名前を呼ばれ、我に返った。
どうやら、見惚れていたらしい。
「えっと・・・・昼間は、ありがとうございます。おかげで、仕事が片付きました。」
頬が熱くなるのを感じながら、礼を言った。
(うぅ、恥ずかしい…)
私の言葉に、彼は微かに目を見開いた。
どうやら、驚いたようだ。
けれど、すぐに、嬉しそうな顔に変わり、
「いいや」
と、言って…
(笑った…!!)
(あんな顔もするんだ…。)
頬に、微かに熱が帯びた。
「さあ、行こうか」
と、彼は手を出した。
「?」
私は、彼の手の平の意味がわからなくて、首を傾げた。
「さっきから、上の空で、ふらふらしてたから、心配で…指を握ってたんだが…。気づいてなかったのかい?」
(!?!?!?)
私は一気に、顔が熱くなるのを感じながら、首が契れるかと思うほど、左右に振った。
「それは…悪かった。嫌ではなかったか?」
申し訳なさそうな、悲しそうな顔をした。
私は、満面の笑みで、こたえた。
「…大丈夫、ありがとう。」
彼は嬉しそうに微笑んだ。
「でも、ほって置けないから。」
半ば強引に彼は私の手を掴んで、彼は歩きだした。
髪の先が夕日に赤く染まり、微かに揺れている。
私は、また顔を伏せた。
おそらく、自宅についても、この動悸と赤面は治らないだろう。
辺りは、ゆっくりと沈む夕日と、夜の色へとが交ざりはじめていた。
