ぞっこん


違う!

麻場君はピアスなんてしてないし、こんな手荒なことなんて…。

否定しながらもドキドキッと胸は高鳴り目も逸らせない。

「そんなにジロジロ見つめて…誘ってるの?入江ちゃん」

「な、なにを!」

すると彼はピタリと足を止め、そっと私を砂浜に降ろした。

「ちょっと待ってな」

「わぁっ!」

被っていた麦わら帽子をぐいっと鼻の先まで下ろされた私はまたしても彼の姿をはっきりと見ることが出来なかった。

「一体、何がしたいの」

困惑しながら麦わら帽子を被り直すと、そこは見知った海の家の入口だった。

「どうしてここに…」

キョロキョロ辺りを見渡しても彼の姿はない。

残ったのは砂の上に置かれたクーラーボックスと潮風の匂いが混じった彼の残り香だけ。