「あれ、今のわざと聞こえるように言ったんだけどさ、聞こえてなかった?」
鼻で笑って私の席の前に仁王立ちしたのは、佐伯さん。
女子のボスっていうか、ヒエラルキーの頂点っていうか。
栗色に染めたふわふわの長い髪の毛とか、カラコンで一回り大きくなった瞳とか、自信に満ちた笑顔とか。
私なんかとは別の世界で生きてる人なんだろうなあ、なんて思う。
「美子さぁ、すっごく気になるんだよねぇ
こーんな大人しい上原さんが、ほんとにいじめとかしちゃったのかなぁって」
佐伯さんの下の名前って、美子っていうんだ。知らなかった。
いつの間にか、私の席を囲うようにして、横にも後ろにも佐伯さんの取り巻きが立っている。
…別にそんなことしなくても、逃げたりしないのに。


