……。


その後、俺たちはすぐに場所を移動した。
あんなところでキスしちまったのにそのまま花火を見続けるなんて、さすがにそんな度胸は無い。


…恥ずかしさ、と言うか、照れのようなものを感じながら真由の手を引いて人混みを進んでいく。


その途中で、駅前で朔也が待ってることを話すと、真由は凄く凄く嬉しそうに笑った。
きっと色んなことを話したいんだろうな。と微笑ましく思ったけれど、同時にちょっとだけ朔也に嫉妬する。

アイツのことを思いながら笑ってる真由を見ると、悔しいっつーかなんつーか…、変なモヤモヤが体を包み込む。


「真由」


だから、駅前に向かおうとする真由を引き止め、近くの建物の陰へと入った。


「えっと…、花火、綺麗だったな」

「凄かったですねー!って、まだ上がってる途中ですけどね。
でも、今まで見た中で、一番綺麗だったかもしれません」


ふんわりと柔らかな笑みを浮かべる真由。
この位置からは花火は見えなかったけど、それでも真由は花火を思い、僅かに空を見上げた。

その顔は、本当に幸せそうだ。


「…電源、切っててごめんな」

「ほんとですよー。
切らないって約束してたのに、また繋がらなくなるなんて、凄く不安だったんですよ?」


「ごめん」

「…でも、今日こうして会えたから良かったです。
本当に嬉しくて幸せで、最高の時間でした」


そう言った時、真由の表情が少しだけ寂しそうなものになった。




「…明日からはまた、電話とメールでしか話せませんね」

「あー…」


そう言えば、「マンションに戻る」ってことをまだ話してなかったっけ。


「実はな、予定が変更になったんだ」

「え?」


きょとんとする真由に、微笑みを浮かべながら答える。


「明日からまた一人暮らし再開。 だから、いつでも会えるよ」


言いながら髪をかき上げ、ふっと笑う。




「俺はお前のそばに居る。
だからお前も、俺のそばに居ろ」


真っ直ぐに想いを伝えた時、
真由は今日一番の良い顔で笑い、大きく大きく頷いた。