この世界では『竜』とは『強者』である。



 燃えるような赤の鱗を持つ竜は無遠慮に他竜の巣へと地響きを立ててやって来た。
それを出迎えることが面倒な、漆黒の鱗を持つ竜は巣の奥で丸まったままピクリとも動かなかった。



「よう、黒竜ベルデウィウス!」

響く掛け声に黒竜―ベルデウィウスは片目瞼を開けてその黄金の瞳で赤の竜を見た。
そして、瞼を閉じる。
「おーい!おおーい!!」
ぺしぺしと黒竜を赤の竜は己の尻尾で叩き始め、
「起きろってば!」
騒ぎ始めた。



 「で、何か用か…赤竜ディウクリス」



壁に大穴が開いた状態を気にせずで黒竜は問う。
「うががが…。いてぇ…っ」
穴の中から赤竜がはいずる様に現れ、
「てめぇ!ベルデウィウス!!」
「黙れ。貴様がしていたことと同じことをしただけだ」
尻尾で叩かれたので、尻尾で叩き返しただけだと答えると、赤竜が声を上げた。
「アレは叩いたってレベルじゃねえ!!殴ったの間違いだろう!!!」
わーわーと声を上げる赤竜―ディウクリスにベルデウィウスは身体を丸め始めた。
「待て!待ってくれ!ちょっと待て!寝るな!!」
「……何だと言うんだ、一体、貴様は…」
「ちょっと相談事があるんだけど…」
その言葉に、黒竜はため息をついた。
「貴様の相談事など些細なことだ。私でなくとも、青竜あたりにでも――」
「その青竜が、だな…」
「?」
言いよどむディウクリスをいぶかしみながら見つめる。



「俺の炎で大やけどを負ってしまったんだ…」



「死ね」



勢いよく尻尾を振り上げたベルデウィウスにディウクリスは悲鳴を上げた。
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!ころさないでーーーーーーーーーー!!」