「さっき、橘って人、紗枝の方見てなかった?」 「…う、うーん…。そうかもしれないけど、勘違いだと思う…。」 今さっき戻って来た、前の列に座っている橘くんに聞こえないように声を最小にして話す。 それなのに…聞こえたらしく、こっちを振り向いて 「俺のこと、呼んだ?」 と不思議そうな顔をして聞いた。 「うわ…地獄耳…。」 美佐が言ったことと心の中であたしが思っていたのが重なった。 「ん?何か言った?」 それは聞こえなかったらしい。