星域は静まりかえっていた。
 傷ついた『タイタン』と『ZEN』、それにロボット艦の『ネイト』は沈黙を続けていた。
 このような終わり方を『ゼロ計画』を立案した者は想定していなかっただろう。だが、計画の目的は達せられたはずだった。ある対象が人類への脅威ということを定義づけさえすればロボットが大量殺人を犯すことができるということが証明されたのだ。
 その行き着く先には戦争にロボットを利用することができるのだということが待っているのだった。
『ゼロ計画』を立案した者はおそらくそれを目論んでいるのだろう。大量殺人が可能なロボットを密かに量産化して戦争を仕掛けることを画策しているのかもしれない。
 長い平和な時間の中、連邦軍は弱体化の一途を辿っていた。近隣の星系国家との緊張も緩和されつつある情勢の中、連邦軍の存在意義に疑問符を投げかける者も出始めている。
 軍に身を置く者の中には強硬な手段に打って出る者がいても不思議ではない。
 意図的に戦争を起こそうとする者が出てきても不思議ではないのかもしれない。
 ロボット工学第零条は危険な条文である。
 いつの日かこの条文が人類の前に立ちはだかる日が来るのかもしれない。
 その日を回避するために自分たちは戦わなければならない。
 傷ついた船体を宙に浮かべ遠ざかっていく『タイタン』の姿をシャトルの窓から眺めながらレナードはそう決意するのだった…。

ロボット工学第零条
 ロボットは人類に危害を加えてはならない。
 また、その危険を看過することによって、 人類に危害をおよぼしてはならない。