木星とアステロイドベルトの中間点に『タイタン』は時空の壁を突き破って出現した。軽い衝撃波が艦内を走る振動音が響く。だが星の海は静かそのものだった。
「リサ、周囲の状況は?」
「正常です。予定されていた演習の痕跡すらありません」
 リサは当惑したようにコンソールを操作し、ヘッドセットに神経を集中させる。
「やはりな…」
 報告を受けたレナードは独りごちた。
「艦長、この宙域では演習が行われているはずですが…」
「偽の情報を流したのさ。我々以外の艦船を近づけないために」
 ジョナサンが眉をひそめる。
 ミサキは操縦桿を握る手に力を込める。
「全艦警戒態勢をとれ」
 レナードの指示の元、艦内の照明が黄色に変わりフォースフィールドが『タイタン』を包んでいく。

「艦長…」
 不意にレナードのコムリンクからアセトの声が聞こえてくる。
「何か邪悪なものが近づいてくるわ。まるで生命(いのち)のない氷のように冷たいものが…」
 サイス人は精神感応能力に長けた種族だった。その能力は生命のあるものばかりではなく物質に焼き付けられた思念さえも読み取ることが出来た。
 そのアセトが不吉な予感を示している。
 危機は確実に迫っているのだ。
 ブリッジに緊張が走る。
 やがて長距離センサーが巨大な船影を捉えた。ブリッジのメインスクリーンに映し出されたそれは『タイタン』の数十倍もあるほどの大きさを示していた。
「副長、前方の宇宙船をスキャンだ」
 ジョナサンの指がコンソールを滑る。
「艦長、こちらもスキャンされています」
 リサが声を潜めて言う。
「好きにさせるさ」
 レナードは呟く。
 巨大な宇宙船は距離を置いて『タイタン』の前方に静止する。
「艦長、相手の宇宙船には生命反応がありません」
「予想通りだろう。副長」
「IFF(敵味方識別装置)では明らかに連邦の船を示しています」
「そう、連邦のロボット艦だ」
「ではこれから向こうがとる行動は…」
「誰もが思っていり通りだろう。至近距離までこのままの態勢を維持だ」
 レナードは星の海を映すスクリーンを見つめていた。
「防御スクリーンは下ろさなくていいのですか?」
 ミサキが後方の館長席を振り返る。
「何故だ。味方の船だぞ」
「しかし…」
「こちらが身構えていると判断されたくない。向こうが攻撃してきたら一八〇度反転だ」
 レナードはミサキに指示を出す。
「前方の船の戦力、フェーザー砲十門、光子魚雷発射口二十」
 ジョナサンがスキャンの結果を読み上げる。
「たいした戦力じゃないか」
『タイタン』の戦力は前後にフェイザー砲が一門ずつ、光子魚雷の発射口が前方に二つのみだった。圧倒的に劣勢だといえる。
 やがて『タイタン』は巨大なロボット艦を視界に捉えた。