「すると本艦のマザーコンピューターに何らかの細工がされていると?」
『タイタン』のミーティングルーム。クルーの主要メンバーの前でデューイの報告を聞いていたレナードが言った。一同の顔に驚きの表情が浮かぶ。
「ええ、それとエレナも…」
 デューイは焼き切れたエレナの陽電子脳をテーブルの上に置く。
「エレナには八キロバイトほどの実行ファイルがどこからか伝送されていました。それが医療室の防護壁に穴が開いているように見せていたんです。それを受けたマザーコンピューターがロボット工学三原則の第零条を発動して爆破したのです。」
 デューイの声が辺りの空間に響いていく。その言葉をジョナサンは顎に指を起き、小首を傾げて聞いていた。
「マザーコンピューターの件はルナの記録も同じことを言っています」
 デューイの言葉を受けてミサキが言った。
「しかしマザーコンピューターには三原則は搭載されていないはずでは?」
「その通りです副長。これも外部から伝送されたものと思われます」
 デューイはジョナサンの言葉に従った。
「しかしどこからそんなものが?」
「恐らく『レアⅡ』のマザーコンピューターからでしょう。艦長、エレナは『レアⅡ』のマザーコンピューターからデーターをダウンロードしています。そしてそれを本館のマザーコンピューターにアップロードした。これを実行させたプログラムはそのときに仕込まれたのでしょう」
「でも副長、ルナもデーターをダウンロードしたのではないですか?」
「ルナがダウンロードしたのはログファイルのみです。それにルナは標準のRシリーズをカスタマイズしています。それが幸いしたのでしょう。もっともファイルを仕込むのはロボットが一台あればいいのです。それでエレナがその役を買ってしまった…」
 そのとき『タイタン』全体に鈍い振動が走った。
 漆黒の空間の中、それまでレアの周回軌道を回っていた『タイタン』はインパルスエンジンの出力をあげて地球に向かって動き出した。