もしも君が助けてくれたら

次に行ったのは弓道場だった。

一歩入った瞬間感じた。ピンと張りつめた空気。

そんな中、一人だけ背筋を伸ばしてあごをひき、真っ直ぐに的だけを睨む。

肩まであった髪を一つにくくっていた。

美しいと思った。

綺麗だと思った。

そして、その手から放たれた矢は正確に的の中心に刺さった。

そして、背中からまた矢を取り出し、次の的へと精神を集中させていた。

「柊由良。弓道個人で全国まで行った奴だ。普段の柊と違って部活の柊は特別だ。アイツをみた奴は誰でも美しいという。僕もいろいろな先生から柊を褒めてもらっていてね嬉しいよ。彼女も彼女なりに頑張っているしね・・・」

ただ、ただ、美しいと思っていた俺は先生のその一言に首を傾げた。

「彼女も彼女なりに頑張っている?」

どういうことですか、先生?

そう聞こうとした時、彼女がこちらを振り返った。

おそらく、集中していた彼女以外がこちらをみていたことにようやく気がついたのだろう。

少し眉をひそめてこちらをみている。

それから、ようやくこちらに歩いてきた。

「あー・・・んー・・・っと、やってみますか?」

すっと差し出された弓を俺は取るか取らないか迷った。

何しろ、弓は使ったことがない。

「・・・教えてあげるよ」

グイッといきなり手首をつかまれて一番中心の的の前につれていかれた。

そのつかまれた手首が柊の手の温もりに脈を打った。

「まず、背筋をシャンと伸ばして。ほら、猫背になっちゃだめだって」

バシッと背中を叩かれて俺はピシッと背筋を伸ばしてしまった。

「そうそう。で、まっすぐ弓を構えて。きちんと的の中心に弓矢あてて」

後ろから支えられて、よくよく考えてみれば初めてここまで近づいた気がする。

そんなことに柊は気がつかずに俺の手を支え、より一層密着してくる。

あぁ、もう!

俺はとにかくこの感情を消し去るためにパッと弦から弓矢を離した。

ビュンッと音がした瞬間、パンッという心地よい音がした。

すごく、いい。

「いいでしょ!?いいでしょ!?」

ニコニコと笑う顔は可愛い顔だった。

じゃ、ない!!!!!

「悪くは、なかった・・・、けど、肩が痛いな・・・、これは・・・」

首をならした後、肩をまわすと、柊が小さく笑った。

「曉は才能あるよ。ほら、中心だ」

みてみると、中心に弓矢が刺さっていた。

「マジかよ・・・」

唖然として呟くと、プッと隣で笑った音がした。

「何?曉君って天然?」

あははは!と笑った顔は本当に楽しそうで、今までみてきたつまらなさそうな、どこか悲しそうな顔とは全然違っていた。

そのギャップがたまらなくて、思わず手を出しそうになる衝動を必死に堪えた。

昔みたいにヘマをやるのだけは勘弁だからな・・・。

俺は小さくため息をついて柊に弓矢を返した。