「く、くそがぁぁ~、やってやんぜぇぇ―――」


 失うモノの無かったもも太郎は暴れました。

 立ちはだかる敵を物ともせず、それこそ鬼のように暴れました。


 しかし、やはり本物には勝てませんでした。

 いくら腕っぷしに自信があるとは言え、さすがに一人では限界が…。

 すぐに捕まって、袋叩きにあい、縛りあげられてしまいました。


「ぺッ、殺れよ…どうせ俺には帰る場所なんてありゃしねぇーんだからよ」


 死を覚悟したもも太郎に、鬼の頭は思いもよらないコトを言ってきました。

「われ、中々やりおるやんけぇ…そのウデ、根性、気に入った!!
どや、わしらの仲間にならんか?」

「な、仲間‥‥」


 今まで自分には縁の無いと思っていた言葉に、一瞬ときめいたもも太郎でしたが、すぐに我に返りました。


『な、何言ってんだよ…出来るわけないだろ?
こんな悪党どもの仲間にだなんて…』


 そして呆れて答えた。

「僕は世のため、人のため、村の平和のために参上したんだ。
それを、お命ほしさに寝返るだなんて…申し訳が立たない」


 鬼の頭はニヤついて尋ねた。

「ククク…じゃあ聞くが、その村の物共はお前に何をしてくれたんだ?
だったら何故お前は独りで戦ってるんだ?」

 !?・・・・。


「そ、それは……」


 ぐさりと胸に突き刺さる言葉でした。


 もも太郎自身、薄々気付いてはいたが、あえて心の奥底に閉じ込めてカギをかけていた。
 それはいわば、開けてはならない《パンドラの箱》の様な感情でした。


 しかし、鬼の一言で忘れかけていた苦い記憶は蘇ってきました。