「おーい、こんなトコで寝てちゃ風邪ひくぞー」

「…う、う~ん……」

 友人の声で青年が目を覚ましたのは、日も沈みかけた、夕暮れどきだった。

「オイオイ、弁当食ってそのまま浜辺で寝ちまったのか」
 呆れ顔で友人が笑った。

「べ、弁当!?」
 青年のそばには色鮮やかな漆塗の施された重箱が置いてあった。

「何だコレ…オレの? 覚えてないな、何だってこんなとこで」

 青年に数時間前までの記憶は一切残っていなかった。言われた通り玉手箱のフタを開けた瞬間、大量の煙があっという間に青年の全身を覆い包み、竜宮城での記憶を奪っていったからだ。


「どこだぁぁぁ―――っ」

 静かな波打ち際から、聞き覚えのある不快なダミ声が鳴り響く。

「ま~た来てやがるよ、あのじいさん」

「し、知り合いか…あのコジキ……」
 青年は軽蔑した顔で尋ねた。

「知ってるも何も、近所じゃ有名なクソじじいだよ。朝から晩まで海で亀探してるって」

「か、亀…なんで?」

「さぁな。困ったもんだぜ、浦島のじじいにも」