「ちなみに先程“竜宮城”の探索を行う者が後を絶たないと申していましたが、実のところ、不可能に近いことなのです」

「不可能…とは?」

「はい、私どもの住む世界(海底)はあなた方の住む地上とはまるで異質の空間に存在します。
海底と地上と言っても銀河の彼方の惑星にも匹敵する距離に在ります」

「え…? ですが、確か行き来するのに、ものの数時間程で到着したではないですか」
 不思議そうに尋ねる青年に亀は答えた。

「はい。ですから私どもは異次元の空間の歪みを利用して人工的に造った特別なルートを使用しています」

「い、異次元の空間の歪み……」
 なんのこっちゃ、理解に苦しむ青年をよそに、亀は続けた。

「したがって、体感的には数時間でも、何光年もの距離を一瞬にして移動する事が出来ます」

「そ、それは凄い…じ、じゃあ今正にその瞬間移動の真っ最中ってわけか……」

「ですが…中にはその逆に、体感的には数分の時間でも、実際には何年もの時間を経過させる事の出来るルートも存在します」

「そ、それは恐ろしい…ハハハ、数時間でジジイになってしまう」

 何がなんだかチンプンカンプンの青年だったが、あちらは随分文明が発達している…。そこだけは確かだった。

「ハハハ、こりゃ参った参った…」
 青年はとりあえず笑ってごまかした。

 そうこうしている内に無事、元の世界(地上)へと到着した。

「どうもお疲れ様でした。何やら不愉快な思いもされたでしょうに…恩人の方なのに、申し訳ありません」

 亀は深々と頭を下げた。

「いやいやいや。あんな滅多に味わえない体験をさせてもらったんです、この位当然ですよ」
 青年は玉手箱を軽く持ち上げて言った。

「みんなあなたみたいな人だったら、こんな事する必要もないんですけど…では、お元気で!! またいつかお会いしたいものです」

「はい、帰りの道中お気をつけて!!」
 青年は大きく手をふり、亀は再び海の底へ消えて行った。

「さてと、じゃあさっそく」

 青年は言われた通り恐る恐るではあったが、玉手箱のヒモをとき、フタを開けた。