来た時と同じ様に、青年を乗せ、亀は地上を目指した。

「いゃ~、ホントに楽しかったなぁ…ありがとう亀さん」

「いえいえ、本来でしたら何度でも来て頂きたいんですけど、故郷の方針がありまして…」
 言葉につまる亀。

「あ、いや…何をおっしゃいます。こちらこそ、僕が言うのも変ですけど…申し訳ない。動物虐待してまで、伺おうとは思いません」

 青年は本心だった。確かに夢のような日々を過ごすことが出来た。大したことをしたわけでもないのに、ありがたいことだ。

 しかし、ある違和感を感じたのも事実。

 時間を忘れる程の至福の一時を味わえた。と、同時に、日常に戻れるか不安だった。

 日々の仕事、家庭、悩み、全てを忘れてしまうんじゃないかと思うくらいの感覚だった。少なからず恐怖を感じたのだった。

《ジブンガジブンジャナクナル……》



「お待たせしました、あと数分で到着します」