「それでは背中に乗って下さい。私の故郷にご案内しますよ」

 呆気にとられた青年だったが、当たり前のように、りゅうちょうに話しをする亀に親近感を覚えて、言われるまま甲羅に股がり、共に水中へと潜って行った。

 不思議な事に体が濡れることも、視界が遮られることもなく、呼吸や会話までも自由だった。
 まるで全身が見えない、薄いまくの様なものに覆われている感覚だった。

「まさか…まるでおとぎ話の中に迷いこんだみたいだ……。失礼ながら、さっきまで本気でどこかの工作員だと思ってましたよ」

「ハハハ、ご安心下さい。もしそうなら先日の彼らは今頃、奈落の底ですよ(笑)」

「ですね、ハハハ…」

 青年は正直笑えないな、と思った。


 潜水を開始してから数時間、亀たちは目的地に到着した。

「お疲れさまでした。ここが我々の故郷“竜宮城”です」

 それは金色に輝く、先の見えない程の巨大な建造物が立ち並ぶ、街とも呼べる宮殿だった。

 豪華な衣装に身を包んだ、絶世の美女達の出迎え。

「お帰りなさいませぇ、ご主人様ー」

「こ、こりゃあ、たまげた…」
 海の底に存在する楽園。

「ぜひ、時間を忘れて楽しんでって下さいませ」