それから数日が経ったある日。帰宅途中の青年に一人の背の高い男が声を掛けてきた。

「いゃ~、先日は危ないところを助けて頂いてありがとうございました。お陰で無事、家に帰る事が出来ました。是非ともそのお礼をさせて下さい!!」

「………………」

 一瞬立ち止まった青年だったが、男の言葉を軽くかわし、何事も無かったかの様にそそくさと歩き出した。

「!?? ちょ、ちょちょちょ…えぇー、ちょ~っと待って下さいよ!?」
 慌てた男は青年を引き留めた。

「い、いや…新聞とかは間に合ってるんで……」
 男と目を合わせる事なく答えまた歩き出した。

「し、新聞!? えっと…だいぶ勘違いしておられる。違います、だんじて違います!!」


 まったく憶えの無い青年だったが、とりあえず付いて来て欲しいと頼まれ、付いて行く事にした。

 どうやら新手の勧誘ではないらしく、せっかくもてなしてくれると言うのだから無理に断る理由もない。もし危なくなったら逃げればいい。
 青年は警戒しつつも、男の後を歩いた。


 連れて来られたのはいつもの海だった。

「ここで? ハハハ、バーベキューでもしようって言うんですかい(笑)」

 男は静かに微笑んだ。

『はっ!! ま、まさかどっかの国に連れて行く気かぁ―――!?』

 青年はしまったと思い、とびきり不安な顔を見せた。
 と、その瞬間、突如男の身体から煙が噴き出し辺りを覆った。

「ぐわぁ――――っ」

 青年は驚きのあまりしりもちをついた。そして、みるみるうちに背の高い男の姿は消え、中から一匹の亀が現れた。

「いやいや、どうもお待たせしました」

「か…かかか、亀が喋ったぁ……」

 自分の目の前で起きてる信じられない光景に気を失いそうになる青年だった。