山道中、めぼしい障害は何も見つからず、順調に駆け上がっていくウサギ(Jr)。

 ゴール目前に勝ちを確信して、余裕の居眠りなどもっての他。

 完全勝利目指し、走る事に全神経を集中させた。


 気付くと目の前には終わりを告げる一本松が。

 思わず笑みを浮かべ、ウサギ(Jr)は叫んだ。


「勝ったどォォォ―――――っ」



 ‥‥これがウサギ(Jr)の放った、この世で最期の言葉だった。




 遅れること、五日。ようやく山頂に到着したカメは、ゆっくりと目的の松の木へ触れた。


 そのかたわらには、ハエやウジにたかられてる、無惨に全身を喰いちぎられ、ハラワタの飛び出たウサギ(Jr)の屍が…。


「この辺りには、凶暴なオオカミやキツネが出没しますからねぇ…」

 まるで事を、予知していたかの様につぶやいた。


 本来、草食動物の中でも弱いウサギは、肉食動物に狙われているが多いため、常にその大きな耳を立て警戒心を解く事はない。

 しかし、あまりにも駆けっこに集中しすぎたため、周りがまったく見えていなかったのだ。


 絶対的に有利なウサギ(Jr)の唯一の敗因は、本気になり過ぎた事だった。



 -完-