2005年、時は、夏のど真ん中。


大事件だ。


おれに、飛行石が落っこちて来た。


「見ろ! シータ!」


8月の青空にもこもこ湧き上がる、ヘラクレスな入道雲。


「いや、おれか!」


再放送されるたびに欠かさず観てしまうものだから、気付いた時には台詞を覚えていた。


「あの雲の峰の向こうにっ、見たことのない島がっ……ハッ……うっ、浮かんでいるんだあああっ!」


今夜の金曜ロードショーは、ラピュタだ。


今朝の朝刊で確認済みだから、間違いない。


おれの1番好きなジブリ映画だ。


「行くぜ! ラピュタ島!」


空が青いぜ、こんちくしょう。


見事に真っ青だ。


ワイシャツがべったりと肌にはりつく。


濁流のごとく流れる、汗。


ああ、今夜はラピュタどころじゃねえや。


かっさらって来たあいつの自転車のペダルを、がむしゃらに漕いで漕いで、漕ぎまくる。


耳元で熱風がゴウゴウ唸る。


午後の茹だり切った風を切り開くように自転車を加速させ、


「どおりゃあああっ!」


ブレーキを掛けずに坂道を一気に下って、満開のひまわり畑の横を疾風のごとく通過した。


突き刺すような強烈な陽射しにくらくらしながら。


来たっ。


アウトコースぎりぎり、低めの直球。


「カッキーン!」


ひとつ目の角を右折した。


シャッ、と車輪が唸る。


「平野選手、1塁を蹴って2塁へ向かったー!」


打球は背走する外野手の頭上を遥かに越え、伸びる、伸びる。