「菊地先輩、手術受けるんだな」


ドキ、とした。


「なっ……なんでそれっ」


知ってるんだ。


「誰から聞いた?」


ごうん、ごうん。


洗濯機が唸る。


洗剤と柔軟剤の清潔な香りが充満する中、おれはカップラーメンを握り締めて南波の背中を見つめた。


「誰からってか」


あほう、と南波が呆れたような口調で言った。


「今は夏だぜ。言っとくけど、どの部屋も窓全開の網戸なわけ。あんなでっかい声で言い合ってんだもんな。筒抜けだっつうの」


「あ……」


そうか。


さっき、寮の前で大声で言い合ってたから。


「そっか。全部、聞こえてたんだな」


「モロにな。たぶん、みんな耳の穴かっぽじって聞いてたと思うけど」


「まじか……」


はは、と苦笑いして肩をすくめていると、


「あのさ、平野」


と南波が振り向いた。


「なんか、ここってさ。野球馬鹿の集まりだよなあ」


え。


危うく、カップラーメンを落っことしそうになった。


「……な、南波?」


だって、南波が。


「平野」


あの、鉄仮面、南波詠斗が。


「頑張ろうな」


そう言って、唖然とするおれの視界から消えた南波。


本当に、微かに。


南波が、笑った。


……気がした。


「な、なななな南波!」


おれはカップラーメンを小脇に抱え、入り口から飛び出し、廊下を歩いて行く南波の背中に言った。


「頑張ろうな!」


「おー」


けだるそうな返事がぽーんと返ってくる。


「それと、ありがとな! これ、非常食!」


声は返って来なかったけど、南波はおれに背を向けたまま、右手をすっと上げて、階段を駆け上がって行った。