『恋人代行 』  ① 媚薬の口づけ



俺の予想通り、部屋は会場と化していた。

数台のカメラと馬鹿デカいスクリーン。

悪夢が甦る。

あの恐ろしい出来事がフラッシュバックする。


すると、目の前の光景に驚き立ち尽くす葵。

………無理もない。

どう見ても“レストラン”じゃない。


俺だけならともかく、葵まで巻き込むとは

マジであの女……悪魔だろ。


「葵、大丈夫か?」


放心状態の彼女の耳元で呟くと、

ぜんまい仕掛けのからくり人形のように

ぎこちなく振り返る葵。


「ごめんな?姉貴が騙したみたいだ」

「えっ?!」


驚く彼女に今日は

“食事会ではない”と告げると

首を傾げて俺を見上げる。


今日は姉貴の祝賀会らしいと告げると


「なんだぁ、そんな事なら早く行ってくれればいいのにぃ~」


彼女は笑顔で安堵した様子。

もしかしたら、この笑顔が

今日の最後の笑顔になるかもしれない。


そんな彼女の笑顔を黙って見ていた。