Marius−マリウス−前編

クレーティルは、顔を上げ、両手で涙を拭った。
「…はい。任せておいて下さい。私も私に与えられた使命を果たします」
クレーティルはゆっくり立ち上がり、ニシキアスを見つめた。
「クレーティル」
ニシキアスはまだ涙で濡れているクレーティルの下瞼を優しく拭った。
「…そろそろ、ケンペクトが声を掛けた者たちが、集まっている頃だ。行って来る」
「はい」
ニシキアスはクレーティルの肩をポンと軽く叩くと、部屋を出た。クレーティルはニシキアスの後ろ姿を祈るように見送った。