かくして…
聖良ちゃんは、学校内で唯一、大っぴらに俺の名前を呼ぶ事を許される存在となった。
彼女が俺を『暁先輩』と呼ぶようになって、既に半月。
最初は違和感を覚えたけど、慣れてくるとそんなに不快ではなくなってきた。
それは、彼女が龍也の想い人であるからでもあるし、聖良ちゃんが俺に憧れや恋愛感情を一切持っていないから、というのもあるかもしれない。
鼻にかかった甘ったるい声で呼ばれるのは嫌いだが、彼女の鈴を転がすような涼やかな声はなかなか心地良いものがある。
杏とは違い、愛おしさや、切なさが込み上げてくることはないが、ホッとする響きがあるというところだろうか。
クールビューティといわれた龍也の、氷のような冷たい表情を温かいものに変えることの出来る彼女は、ハッキリ言って、この世に二人といない貴重な存在だ。
俺に権限があれば、人間国宝にしたいくらいだ。
いや、これは大げさじゃなく、マジな話。



