「母さん、大丈夫?」
悲しそうでもなく、心配そうでもなく、表情のない顔。
昌樹にそっくりだった。
いつも笑っていたはずの夫は、笑っている訳では無かった。
感情のない微笑みなど、無表情よりも酷く冷たいことを知っていた。
昌樹は家で美代子と二人の時は、滅多に笑わなかった。
家にいた昌樹を周は見たことがないはずなのに、と美代子はずっと不思議に思っていた。
同時に嬉しくもあった。
昌樹の子である、証のように思えて。
「私、退院したの。もう大丈夫よ。だから、これから仕送りは要らないわ」
「そうか。母さん、あのさ…」
「周、もう行くわ。また今度聞かせてちょうだい。まだ、早いわ」
美代子は精一杯の笑みを浮かべた。
また墓場にガタガタと軋む音がする。