昌樹が護った我が子は今、元気に生き、必死に働いている。
我が子を美代子は、周(あまね)と名付けた。
昌樹の冷たくなっていく身体を、ただひたすら見ていた姿が印象的で、あの時の雨の様に静かであったから。
周は毎月一度は必ず、昌樹に花を持って会いに来る。
昌樹にお礼を言うために。
父さん、僕を生かしてくれてありがとう、と伝えに。
周は美代子に気を使ってか、あまり美代子に会いには来ない。
今はもう、仕送りが届くくらいだ。
美代子は昌樹にあの夏のこと、周のことを話した。
もうすぐそっちへ行くわね、と最後に挨拶して。
墓地に蝉の声が響いた。雨は降らない。
もう、降ることはない。