昌樹が死んだのはもう、10年ほど前だった。
美代子はもともと、子をつくれない身体であった。
だが、昌樹と美代子はどうしても子が欲しかった。
だから孤児の引き取りを二人は決意し、雨がしとしとと降った日に一人の男の子を引き取りに行った。
それがいけなかった。
あの日に引き取りに行かなければよかったのに、と今でも美代子は悔やむ。
スリップしてきたトラックから、我が子となった男の子を護った昌樹は、即死だった。
最期の昌樹は、いつもの微笑みを浮かべていた。
その微笑みが果たして、一瞬の死であったため痛みを感じなかったからなのか、それとも我が子を護れた喜びからくるのかは、誰も解りはしない。