あの蝉の男の子は今頃、どうしているのだろう。

美代子はふとあの夏休みを思い出した。
美代子にとって温かな、そしてどこか不思議な思い出。


もうあの時の元気な姿ではないというのに、美代子は戻ってしまいたかった。



美代子は床に就いていた。

彼女の歩く力が無くなるほど。

蝉の人生だと、美代子自身気づいていた。


美代子は現実と夢とをさ迷う生活に、うんざりしていた。

最期くらい、あの時に浸っていたかった。

紫陽花が濡れていた昼下がりに、美代子は医師に伝えにいった。

お世話になりました、と。