昇降口を出ると、黒服の人が車を停めて待っていた。
「翠葉お嬢様、お迎えに上がりました」
 さすがにこの対応は気後れしてしまう。周りの人の視線を集めているからなおさらに。
「翠葉お嬢様」という言葉には慣れてきたものの、令嬢扱いされるのはどうにも慣れそうにない。
 開けられた車の後部座席に乗り込むと、外からそっとドアを閉められた。
 ひとりは運転席に座っていて、今ドアを閉めてくれた人は助手席に納まる。
 車は緩やかに発進し、学園内の環状道路から私道へと入るところで一度停まった。
 外にはふたりの男の人が立っていて、後部座席の窓が自動的に開く。きっと運転席で操作されているのだろう。
「本日は、私どもにもバレンタインのプレゼントをいただきありがとうございました」
 外のふたりがきちっと腰を折る。そして、車に同乗していたふたりも狭いスペースで頭を下げた。