バレンタイン当日の朝、いつもより荷物多めで家を出た。
 一階に下りると、秋斗さんの家で一度お会いしたことのある人が立っていた。
「藤守さん、おはようございます」
 藤守さんはにこりと笑って頭を下げた。
「あの、これ……バレンタインのお菓子なのですが、十人分あるので皆さんで召し上がってください」
「バレンタイン、ですか?」
「はい、バレンタインです。二月十四日の」
「私たちに、ですか?」
「はい。……やっぱりこういうのは受け取ってはいただけませんか?」
 ふと、真白さんを尋ねたときのことを思い出していた。
 あのとき、タンブラーに入ったコーヒーは受け取っていたけれど、お茶の席に同席することは遠慮されていた。