時間的余裕がないから、「特別な何か」を作ることはできない。それでも……初めてのバレンタインだから。
 ほんの少しでも「特別」の要素を含ませたくて――。

 捏ね機を使うとあっという間に生地作りは終わってしまった。手作りの私のほうが時間がかかっているくらい。
 七倉さんはスケールを使い、きっちり五等分にしてラップで包み業務用冷蔵庫へしまっていく。その頃、ようやく私が作っていたものも生地がまとまりだし、ラップで包める状態になった。
 ここまでで約三十分。
「さてどうしますか? コーヒークランブルケーキはさほど時間がかかるものではないので、今日中に作ってしまいますか?」
「え……いいんですか?」
「はい。このあとはとくにこれといった予定はございませんので」