あのあと、しばらくは司の機嫌は凄まじく悪く、俺らですら近寄れなかった。
 それが一年も終わりの二月だったから良かったものの、その件以来、担任が司にびくついてるのは誰の目にも明らかだったと思う。その後五年間、その先生が司の担任になることは一度もなかった。
 普段、司が人と言葉を交わす回数はものすごく少ない。授業中に指名されて朗読させられる時間が一番長く司の声を聞ける時間だと言っても過言じゃないだろう。
 その司が、珍しくあれだけ自分の意思を言葉にしたにも関わらず、先生はおばさんを呼んだ。
 どんな形でかは知らないが、司がぶち切れたと見て間違いないだろう。あいつがぶち切れるのなんて俺も朝陽も見たことがない。唯一、俺たちが知らない司の黒歴史。
 そして、翌年。二年次からは自分で対処するようになった。――つまり、事務室に「落とし物」として届ける、という手に出るようになったのだ。