久しぶりに爪弾く音はとてもたどたどしいものだったけれど、ふたりは何を言うでもなく聞いてくれていた。

 私はこの日を忘れない。
 三人で一緒に過ごした時間は三十分もない。けど、私はこの時間を忘れないと思う。
 学校には行けなくても私の時間は止まっているわけじゃない。ここ、「病院」という場所で、毎日二十四時間きちんと進んでいる。
 日々、何も変わることがないと思っていたのは、私自身が何をどうしようとしていたわけではないから……。
 この入院がいつまで続くのか、この不安定な体調がいつ落ち着くのか。そんなことはわからないけれど、「色」は取り戻せた。
 灰色のフィルターがなくなった世界は驚くほどに色が満ち溢れていて、それは太陽が沈んでも変わらない。
 夜の帳が下りれば濃い青に支配された世界が広がる。その中でぼんやりとオレンジ色を灯す外灯は道標のよう。
 あれはきっと希望の光だね。