その日の夕方、楓先生が病室に迎えに来てくれて、車椅子で中庭へ出た。
 中庭には私服に着替えた水島さんがいた。今日の勤務が終わったのだろう。
「これなんだけど、どう?」
 香水のボトルを差し出される。それは細長い長方形のボトルで金色の蝶がキャップとしてささっている。
 吹き出し口に鼻を近づけ、くんくんと嗅ぐととてもいい香りがした。フルーティーだけどお花の香りもする。とても優しい気持ちになれる香り。
「気に入ったみたいね?」
 顔を上げると、水島さんが満足そうににこりと笑った。
「ラッピングもしてないし、使いかけ。でも、プレゼントって言っていいかな?」
「水島さん、ありがとうございます。私、香水なんていただくの初めて」
「……そっかぁ。まだ十六歳だしね? これからよ、こ れ か ら っ ! それ、そんなにキツイ香りじゃないし、翠葉ちゃんは個室だから気にせず使っていいわよ」