光のもとでⅠ

「先生……翠葉は、どこが悪いんですか?」
 できるだけ冷静に、静かに口を開いた。すると、先生が俺のほうを向いて話し始める。
「蒼樹くん、翠葉ちゃんが自律神経失調症と低血圧であることは知っているかい?」
「名前だけは聞いています。あとは……家庭の医学に書いてある内容くらいは理解しているつもりです」
「なるほど。では、少し補足しよう」
 膝の上で手をぎゅっと握る。覚悟を決めるように。何を聞いても驚かないように――。
「自律神経には交感神経と副交感神経がある。そのバランスが崩れていることを自律神経失調症というんだが、自律神経とは人が生きていくうえでとても重要な役割を担っている。例えば、血圧を調節する、体温を調節する、血液循環量を調節する。それらは人が意識してやろうとすることじゃないだろう? そういったものを自動的に調節してくれるのが自律神経なんだ。一般的に自律神経失調症といわれる人は、生活に多少の支障が出る程度なのに対し、翠葉ちゃんはかなり重度でね、神経の働きがとても微弱なんだ。私が今まで診てきた患者さんの中でも翠葉ちゃんほど症状の顕著な患者はいないよ。そのくらい、身体の機能がうまく働いていないんだ」