光のもとでⅠ

「はい。心臓の電気信号には問題はありませんでした。時々、軽度の不整脈が見られる程度で、とくには治療の必要がないものです。僧帽弁逸脱症に関しましても先日お話ししたとおりです。現時点で治療をする必要はありません。それも制約を守っていればの話ですが、翠葉ちゃんが自発的に走ったとは思いがたい……」
「そうですね……。それはないと思います」
 先生はデスクに乗っていたカメラを父さんの前へと差し出した。
「翠葉ちゃんの所持品だそうです」
 父さんはカメラを手に取ると、電源を入れプレビュー画面を表示させた。
 そこには桜の蕾がたくさん写っていた。どれも空を見上げるアングルで。
「……娘は立っていたのかもしれません。写真を撮ることに夢中でずっと――」
「……そうでしたか。だとすると、起立性発作を起こした可能性もありますね。そこに不整脈が重なったという可能性も……」
 父さんと先生の話を聞いても、俺には何がなんだかわからなかった。