俺が処置室に入ろうとすると、鋭く止められた。
「少し落ち着つこう」
「落ち着けるわけがないっ」
「そうだね。でも、君が処置室に入ってできることはないだろう?」
 冷静さを欠いている頭に、その言葉は冷や水の如く有効だった。
「そこに座りなさい」
 背に手を添えられ、処置室前の長椅子に座るよう促される。
 知らせを聞いてからずっと、震えが止まらずにいた。
「中に藤宮紫という医師がいる。妹さんの主治医だろう? 彼は優秀だよ。絶対に助けてくれる」
 誰でもいい、誰でもいいから翠葉を助けてくれ――。
 こんなにも何かに縋りたいと思ったことはなかった。
 最後の神頼みって言うけれど、そんなのバカらしいと思ってた。
 不確かなものに頼るより、己が努力すればいいと、そう思ってきた。でも、自分が無力だと知ったとき、最後に思いつくのは神頼みしかないということをこのとき初めて知った。